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一年前のことを思い出す

これは2023年8月23日に、中国天津の家の近くで撮った写真だ。
福島第一原子力発電所における ALPS処理水の海洋放出が行われる というニュースが中国内で駆け巡り、24日には日本産水産物の全面輸入停止措置を取るということも発表された。その前日のこと。

その海洋放出が行われるというニュースが出てからは、生活に少し緊張感があった。実際大使館から 外で日本語をあまり喋らないように というメールが来たりしたし、何人って訊かれたらすこしぼやかそうかなととか思っていた。けれど普通に生活をして、外国人があまりいない場所も散歩もしていた。そんな時、今まで何度も、毎日のように歩いている道にある小さなスーパーで、塩が大量に売られていたのだ。それは今までには絶対にない景色で、いつもは季節によってさつまいもや、りんごが売られている店先で塩が売られていたのだ。

海産物が汚染され塩が不足するのではないかという懸念や、中国の塩にはヨウ素が添加されているから摂れば放射能が防げるのではないかという話が広まり、塩を買い溜めするという動きが中国全土であり、そのことはニュースで知っていた。実際に塩が汚染されるのかとか、ヨウ素が添加された塩を摂れば放射能が防げるのかとか、そんな話はおいておいて、いつもならありえない場所で大量の塩が売られている、という景色を見たときに、あっ現実だ、と思い心拍数が一気に上がったのだ。日本が海洋放出をしなければ見ることがなかった景色だから。

中国で生活をして、日本人であるということを隠すこともしていなかったけれど、嫌な思いをしたことがなかった。直接悪意を向けられたことなんて一度もなく、むしろ親切ばかり受けてきた。でも、この塩が売られている景色を見たときに、それはたまたまで、当たり前のことではないのかもしれない、ということを突き付けられたのだ。


ニュースをどんなに読んで知っても、実感を持つのは難しい。この景色を見てわたしは少しわかった気になっているのか時折思い出すけれど、相変わらず直接的な感情を向けられたことも、家族が大変な目にあったり、取り返しのつかないことにもなっていないから、わかっていないのかもしれない。心を痛めて、しばらく立ち上がれないようなニュースを知ってもわかっていないのかもしれない。できることならずっとわかりたくないとも思う。


憎悪の連鎖がおきませんように、あらゆるヘイトスピーチが止みますように。

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